2008年7月27日 (日)

精霊の守り人

上橋 菜穂子  偕成社

 登場人物の名前がカタカナなので初めは読みにくくて戸惑ったが,日本のアニミズムを髣髴とさせて、その世界観に引き寄せられた。どのような祭りにも意味があった、等々。世界観がブレない作品は、良い作品だと思う。

 悪いつきものを持った皇太子がそれゆえに皇帝から命を追われるという話で、皇太子のチャグムは、その運命を時に恨む。私には縛られる運命はない。でも「誰しもが自分らしいもがき方で生き抜いていく」という言葉は胸を打った。生きるのではなく、生き抜く。そして、もがく。自分の生き方も、決してかっこいいものではなくて、泥臭くて、いつもいつもあっちへぶつかりこっちへぶつかり、だ。でも、そんなのも生きていく中では必定なのかもしれない。人間とはもがいて生きるものなのだ、と感じたりした。

〈既刊〉闇の守り人

    蒼路の旅人

    虚空の旅人

2008年5月 6日 (火)

ノーチラス号の冒険

ヴォルフガンク・ホールバイン 作       創元社 

 個人的にすごく大好きなベルヌ「海底20万海里」の続編。こういうのは、ホームズやアルプスの少女ハイジなどでも行われているらしい。他者による(原作ファンの)続編。

 ネモ船長の息子である主人公が父の残したノーチラス潜水艦に乗り込み冒険していくのだが、その潜水艦は実はアトランティスのものだった。アトランティスの末裔、セレナも仲間に加わり、更に冒険がは進む。

 それぞれの巻に緩急あり。個人的には、恐竜の谷や石と化す疫病というSF系の巻が面白かった。SFはやっぱり発想だ。石になった魚と遭遇したり、自分も石になってしまうなんて、普通にはありえないことだから、面白いし心が揺れるのだと思う。

〈シリーズ構成〉

①忘れられた島                    ⑦石と化す疫病

②アトランティスの少女                ⑧灰色の監視者

③深海の人々                     ⑨失われた人々の街

④恐竜の谷                      ⑩火山の島

⑤海の火                        ⑪氷の下の街

⑥黒い同胞団                     ⑫ノーチラス号の帰還

2008年2月23日 (土)

十二国記

小野 不由美    講談社     2001.1

 その世界では、麒麟が王を選び、国政を補佐する。王に恵まれなかった国は衰え、王に恵まれた国は栄え、また王も長く生きながらえ、国政を守り続ける。

 陽子という普通の女子高生が麒麟に選ばれもう一つの世界に連れられた。王になることを決心するまでに陽子は悩む。しかし、色々な人と出会ううちに、何かを掴み取っていく。

 このストーリーが衝撃だった。陽子が驚くほど成長したこと。王になるというドラマティックな展開だから、彼女も急成長しなければならなかったのだろう。その立場に投げ出されてみないと分からない。でも、王になるという宿命を受けた陽子は偉い。迷いを断ち切る陽子や夢中な姿の人々がとても元気を与えてくれた。

 他の話も、この言葉、いいなぁと思ってしまう言葉がたくさん出てくる。世界観もすごく徹底して設定されている。この作品も続きをぜひ書いてもらいたいなと思ってしまう。

〈既刊〉月の影 影の海

    図南の翼

    魔性の子(新潮社)

    

クロニクル千古の闇

ミシェル・ぺイヴァー 作  さくまゆみこ 訳   評論社   2005.6

 ①オオカミ族の少年

 ②精霊わたり

 ③魂食らい 

  ④追放されし者   ・・・以下続刊 

 トラクは満足そうにうなづいた。オオカミの子は、トラクがリーダーだということを学ばせなくてはならない。そうでなければ、この先たえまなくごたごたが起きるだろう。

 氷河時代をモチーフにした作品とか。主人公のトラクは、森での生き方を教えてもらった父が何者かに殺されてしまう。トラクは、仲間のオオカミウルフと森を歩き、さまざまな種族と出会い、父を殺した者との接触を続ける。

 まだ続くので今から展開が楽しみである。このシリーズの好きなところ。1つ目。物語はトラクとウルフの視点から進められていくのだが、ウルフの視点がおもしろい。トラクのことは「背高尻尾なし」、アザラシは「魚犬」独特だ。2つ目。世界観が細やか。すべての登場人物や景色が生き生きとしている。特に、人が死んだときにはどうする、なんて儀式的な要素があちこちに出てきて楽しかった。

 もちろんストーリーも文句なしだ。

2008年2月12日 (火)

ひつじが丘

三浦綾子    主婦の友社   1966.12.10

 しかし、ことここに至っては何も言うまい。愛するとは、相手を生かすことであり、またゆるすということであることを、今改めて言っておく。いかなることがあっても、わたしたちはお前を捨てない。自分から出て行った家には戻りにくかろうが、別に勘当されたわけではない。いつでも遊びに帰っておいで。

 抜き出し文は主人公の両親からの手紙。主人公の奈緒実は、一時の見誤りから女遊びのキツイ男と結婚してしまい、そのことで悩む。そこに高校時代の教師との三角関係も絡んでいく。この奈緒実の両親はキリスト教信者なのだが、こういう風な手紙が書けることがすごい。奈緒実の身になってつい涙ぐんでしまった。

 本作のテーマはゆるすということだろう。人間はいったいどれくらいゆるすことができるのだろう。どんなひどいことをされても「ゆるす」ことができる人を尊敬する。自分には無理だ。どうしても自分大事に思ってしまう。年をとれば、「ゆるす」精神をもつことができるのだろうか。

2008年1月 6日 (日)

砂の妖精

イーディス・ネズビット・ブラント 作  石井桃子 訳  1991(原作 1902) 福音館書店

 さて、子どもたちは、ここで一週間と暮らさないうちに妖精を一つ見つけたのですが―――みなさん、信じてくださるでしょうね。

 妖精というイメージからティンカーベルのような可愛らしい生き物を想像していたのだが、果たして!砂の珍獣とでも言ったほうが良いのではないか。この時点で心の中はヒット炸裂。

 物語は、兄弟姉妹が妖精に(昔は願いを聞く代わりにメガテリュームという生物を食料にもらっていたそうだ。見てみたい・・・)願い事を叶えてもらうというもの。

 話はとても和やかに進められていて、あったか。子どもの頃、こういう話が好きだった。子ども好きなおばさんがそこにいて、笑って語ってくれている、そんな雰囲気だ。

世に棲む日々

司馬遼太郎 作    1971   文芸春秋

 高杉が暴発して、馬関を占領した。というおそるべき報道が諸街道を駆けぬけて敵味方につたえられた時、敵味方とも、「重大事態がおこった」という衝撃と印象をしく持った。(略)要は「高杉晋作」という名前が、衝撃をあたえたのである。

 前半は吉田松陰の、後半は高杉晋作を中心に描かれる。私としては、司馬作品最上、幕末作品最上の作品だと思っている。

 それは自身が高杉晋作に特別な思い入れがあるからかもしれないが・・・高杉が現在もなお人を魅了するというのは、当時から変わらず、彼の天性の才気と生き方にあるのだ。一時、自分に似ていると思ったこともあったが、そうではない。当時の人が言った様に、高杉は「鬼人」であり「神の申し子」なのだ。彼がいなければ、長州は動かなかった。上士という身分と、思考がその才覚を表すのに役立った。今の日本を見て、晋作はどう思うだろうか。想像すると楽しい。

七月七日

古処 誠二 作    2004・9  集英社

 そして俺も、その意識をもっている一人なんだ。俺は白虎隊を立派だと思う。だから恥じてるんだ。分かるか?あんたはさっき「恥の文化」と言ったが、確かにその通りだよ。間違ってない。だけど、それ自体を勘違いしてる。恥の文化は例外とか、前例のないことを嫌う文化だよ。(略)和を重んじる文化だ。だからこそ、捕虜は許されないんだ。

 視点を変えた作品。この作品に関しては、思うところがあったので、長く書く。戦争のことだから、色々な考え方があるかも知れない。以下の「思うところ」が間違っていたとしても・・・それはご容赦だ。

 私は日本人だから、アメリカ兵が日本人を馬鹿にした発言にたとえそれが事実であろうと気分を害す。その彼らが日本を怖いとおびえれば、晴れたような気分になってしまう。

 これが血というものなのだろうか。非道を尽くしたことや、南洋諸島で命を落とした人のためにも、日本陣の戦争を肯定してはならないのに。戦争は、ゲームのようだ。水源というカードを取れば、勝ちが見えてくる。一つ一つ山を占領する。・・・まるで陣取りゲームだ。この駒が人で、人を殺しながら、行く。

 何のために戦争?こどもが戦争ごっこが好きなように、人間の心の中には争いを好む心が潜在している。争いは起伏を生む。人は人生を充実させようとする。

 私たちは戦争を起こさぬよう努力しなければならない。しかし、人間が人間である限り、人生を充実たるものにさせんとする習性が目を覚ますのではないだろうか。地球にとって、人間とは業な生き物だ。

 ・・・と、ここまで考えさせてくれるのだから、この本はすごい。

 

2007年11月 3日 (土)

御家人斬九郎

柴田錬三郎 作

新潮社文庫  1984.9 

 「それに吹き寄せに似て居るな。薄焼きの卵が、ご飯に混ぜてある」―――そんなことは、どうでもいいやな。五皿でかんべんしてもらいてえぜ。斬九郎は胸の内で吐き捨てた。

 念願の一冊がやっと読めた。ドラマで放送されていた時にあまりに面白かったので、何とか原作が読みたかったのだ。(ドラマも何シリーズかあって、もっと続いて欲しかったのだが、斬九郎の母役の岸田衿子さんが亡くなってしまった為、叶わぬ夢となってしまった・・・)

 さて、貧乏御家人ゆえに切腹幇助の副業をなりわう斬九郎と、彼が得たお金は全部食べ物に変えてしまう大食らいの母が出てくる時代小説。ドラマに比べると、設定がコミカルすぎるな~と思わないでもなかった。だけれど、斬九郎と母との江戸調の言葉の掛け合いは見事。作者の知識は半端ではない・・・

2007年8月27日 (月)

ドウエル教授の首

アレクサンドル・ベリャーエフ 作   袋 一平 訳

早川書房 1969 (原作 1925)

 「いいかい、ラレー、ぼくらは思いもかけず、大きな秘密のしっぽをつかんでしまったんだ」ホテルに帰るとアルトゥルは言った。「誰の首がケルニの家にあったか、わかるかい?ぼくの父の首だよ、ドウエル教授の!」

 その名の通り、首だけとなって生きるドウエル教授の話。それを教授の息子と、その友人が見つけ出す。

 SFの傑作だ。いつも思うのだが、ベリャーエフの作品はもっと翻訳されてもよいと思う。さて、首だけを生き返らせるとは・・・つまり人が死ねないということ。では人の死とは何なのか。何をもって死とするのか。首だけでドウエル教授のように本を読み、思考を楽しめるならよい。思考する人間か否かで大きな差がある。私なら楽しめそうだ。でも生きることに区切りをつけるためには、やはり死の存在は一度きりであるべきだろう。

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読んだ本

  • 上橋菜穂子: 虚空の旅人 (★★★★★)
  • 梁 石日: 雷鳴 (★★★)
  • 重松 清: リビング (★★★)
  • 三浦 綾子: 草のうた (★★★)
  • 山本 文緒: パイナップルの彼方 (★★★)
  • さだ まさし: 精霊流し (★★★★)
  • さだ まさし: 解夏 (★★★★★)
  • シーラという子: トリィ・L・ヘイデン (★★★★)
  • 重松 清: ビタミンF (★★★)
  • ジズー・コーダー: ライオンボーイⅡ 奇跡の翼 (★★★★)